建物への想い 市比売神社

京都最古の神社を大きくアピール。

 この市比売神社は平安京遷都の翌年にできたという京都でも最も古い神社なんです。だから、この神社がその活動基盤となるために、いかに地理的環境や土地をいかしてアピールしていくかということで、宮司さんとともに約十年間にわたって改築構想を練っていたわけです。そして出来上がったのが現在の建物。1~2階が神社で3階から5階までが全国から子女を預かりお茶やお花などの稽古事を行う修練場となっています。
現在、築3~4年になりますが、神社自体のアピール力が非常に増しており、宮司さんも以前にも増してさまざまなアイディアを打ち出して、順調な活動を行われています。
とにかく神社の建物ということもあり、いかに目立つ形にするかということで、1階を高くとって鳥居を中心にイメージづくりを行いました。また、修練場の方は一般 的にはマンションにしか見えないわけですし、目立ってはいけないということで、見上げなければ存在が確認できないようなものにしています。

市比売神社/京都市下京区
主体構造:鉄筋コンクリート5階建

建物を建てることは、自分を磨くこと。

 私は、多くの建築の失敗は企画の甘さにあると考えています。だから私の場合、建築設計の依頼を受けますと、まず時間をかけて施主さんが何を欲しているのかを探ります。誰も、単に建物を欲しているのではなく、その前に何かがあると思うからです。例えば、土地をどう使おうかとか、住宅なら家族それぞれはどう住みたいと思ってのかとか。こうしたところを整理してはじめて施主さんのための建築ができると思うのです。
単にビジネスライクに設計をしてお金をもらえればいいとは思っていません。いつも自分の腕を磨くのだと思ってやっていますよ。要するに何のために設計を行ったかということなんです。市比売神社でいえば、神社の活動がじっくり行えるための基盤づくりという主旨があったわけです。
これは職人の方も同じだと思います。単に指示されたことをやるのではなく、どのようにしたら良いものが作り出せるかという思いが肝心だと思うのです。いわば心の問題です。今の金銭中心の世の中で、ややもすると忘れられてしまうことですよ。
大岩さんについても、職人とのチームワークの良さは貴重だと思いますし、今後は一層良い作品を残すといった思いでやっていっていただきたいですね。


京都だから、世界の京都という意識をもって。

 私は京都の建築家であるということはひじょうに自負できることだと思っています。京都は歴史的に意義深い場所であり、観光都市としても世界から注目をあびています。そしてその中の一つの細胞として建築に携われるということ。それはこの京都だけの特権なんです。大阪でも東京でもない。日本の京都、世界の京都なんです。
だからこそ、歴史的風土をだめにしないように調和を考えたものづくりをしていかねばならないと考えています。これは決して歴史を保存しようというのではありません。新しい機器や素材を使っても、いかにその精神的な匂いを残すかということが大切なんです。私たち建築家にとっての成功は、作り方ではなく、出来上がった建物の利用のされ方にあるのですから。 (若城光柾氏談)


若城光柾
わかしろ みつまさ
〔株式会社若城建築事務所所長・一級建築士〕
昭和20年滋賀県生まれ。 大阪工業大学卒業。 昭和45年若城建築事務所開設。 現在京都で活躍中。