建物への想い 長谷川邸

厳しい制約の中から生まれた プライベート尊重の住居。

 長谷川邸の場合は、地域的にみましても醍醐天皇御陵の近くであり、容積率や高さの厳しい規制がありました。また、お住まいのご家族も、ご主人、奥様、お子さん二人プラスご主人のお母様と妹さんという構成であり、特に各部屋の独立性といいますか、プライバシーをいかに保っていくかというのが平面 計画のポイントになりました。
 本来なら余裕をもって打合せを行うところなんですが、お施主さんのご事情で、着工日から完成日まで当初からきっちりと日取りが決められていたため、一週間毎にA案、B案、C案という具合に計画の打合せを行いました。その結果 ほぼ図面通りに出来上がったのがこの建物です。
 高さ制限のために二階建が限度ということもあり、外観は二階建に見えますが、中は7層で各部屋ごとに段差をつけており、部屋の前を人が通 ることがないようになっているんです。廊下をなくして階段の左右に部屋があるといった形なんです。樹木に例えれば、階段が幹で枝のように各部屋がついているわけです。このため、図面 はちょっと複雑になり、職人さんは苦労されたと思います。

施主さんがいて、建物がある。

 私の場合、公共の建物の設計を中心にやっているということもありますが、住宅の設計の場合は結構楽しんでできますね。とにかく施主さんの希望を全て聞くために、チェックリストを作って打合せに入ります。住む方の思いを中心に進めるというのが私の考え方ですから。
 もちろん施主さんの希望とはいえ、街並みや周辺の環境などを考えたうえで、説得が必要な場合もあります。
 それと私が設計した建物は私の子供のようなものだと思っていますから、その建物がどうなっているかは常に気懸かりです。だから、時々その建物を見に行くことにより、アフターサービスを心がけています。

職人さんには感謝しています

 この建物に関しては職人さんに感謝しているんですよ。よくやってくれたなって。現場に行くと「難しい」という言葉がいつも聞かれましたから。
 一般的に言って良い職人さんが減ってきていますからね。それだけに施工会社の監督の管理が難しいということなんですが、その点施工図をきっちりと書いてこられた大岩さんを評価します。また、アフターケアの面 での細かな対応を今後もぜひ忘れずに続けてほしいものです。  私の建物づくりの基本姿勢は、それが「注文建築」である以上、お施主さんの希望をよく聞き、それに技術的な工夫を加えて建物のメインテーマを決め、設計を進めるようにしています。また、その建物に適した施工会社を選ぶための努力も重要なことだと思っています。だって設計者と施工者とは車の両輪のようなものですからね。 (江坂仲博氏談)


江坂仲博
えさか なかひろ
〔株式会社江坂建築事務所所長・一級建築士〕
昭和8年京都生まれ。 市立伏見第二工業(現伏見)高校卒業。 内藤建築事務所を経て、 昭和51年に江坂建築設計事務所を開設。 現在大阪本社を中心に、 東京と岐阜に支社を持って活躍中。