建物への想い 吉田邸 今村邸 野口邸

採光と古い家並に調和した 重みを持つデザインの住居。

 この吉田邸の場合は、京都特有の間口が狭く奥行きの長い土地ということもありまして、当初は中庭を広くとり階段部分も三階までを吹き抜けにして、そこからの採光をかなり期待していました。まあ途中で少し中庭を狭めたりはしましたが、それでもなおおもしろさは残っていると思います。それから、デザイン的には表正面 のアールの部分がポイントなんですが、これは西陣の古い家並である場所柄、周囲に違和感を感じさせずなおかつ何か重みをもたせようという意味でシンボリックなものをおいたわけです。少し硬いデザインかもしれませんがね。施主さんの信頼を受けていましたからやりやすい仕事でしたが、苦労した点をあげるなら工期がきつかったことでしょうか。
そうした点では、大岩さんは工期厳守でやってくれますし、図面上のこちらの意図も理解してくれるので安心してまかせられました。

吉田邸/京都市上京区
主体構造:鉄骨3階建

施主さんの意向、そして光と影を大切に。

 私の場合、設計にあたっては施主さんの意向をどんどん取り入れることをモットーにしていますし、そのため計画段階で何十回となく話合いを持って実施設計に入ります。プランをおこす段階で大切にしているのは、周囲のロケーションと敷地を見て感じた自分の第一印象です。そして、光と影を大事にしたい思いで図面 にしていきます。とにかく形あるものはきれいでなくてはならないと思っています。
その意味で私たちは、図面が書けてなおかつそれが図面通りに施工できているかどうかの見極めもできなければならないんです。例えば吉田邸の場合なら、階段周りの納めとそこへの光と影の入り方が心配でしたから、枠組みの出来上がった段階で現場に入ってみたわけです。現場でいかに空間を把握できるかということがすなわち見極めなんですよ。で、これは経験しかないですね。何度も現場に行って身につけることです。
施主さんの意向ということでは、反対に私たちが思いを込めて設計した部分をどう使われるのかということも気になりますね。こちらから指示できることではありませんが、うまく使っていただいているのを見ればやはりうれしいですよ。だから吉田邸のアール部分の内側もどう使われるか楽しみにしてるんです。

野口邸/京都市西京区 主体構造:木造2階建

思いの通じる施工業者との仕事が理想。

今村邸/京都市北区
主体構造:鉄骨3階建

 施主さんのためという意味では、私は設計者と施工者は、当然密な関係を持っていなければならないと考えます。そうでないと良い仕事はできませんからね。例えば、こちらが壁の色を薄めにしてと注文しても、施工者の考える薄い目がどんなものかわかっていなければ色は違ってきます。このように見込みの話で進めて、わかってもらっているだろうと思っても、できていない場合がありますからね。その意味で、大岩さんとは仕事が多いこともあって、私の好み、例えば色や窓の額縁のサイズなどをわかってもらっているのでスムーズに仕事が進められます。
大岩さんについての印象は、なによりも工期のきつい仕事への対応です。例えば、餃子の王将桂東店の場合、私としてもかなりおもしろい設計ができたと思えるものですが、工期は僅か1ヶ月でした。それから宝石店兼住居の今村邸。改装でしたが、こちらも工期がきつかったのですが、きっちり対応されたのには驚きましたよ。
最後にこれは私たち建築に関わる者全体の問題ですが、アフターフォローにすばやく動けるかどうかということ。建築というのはもともと完璧にできるものではないのです。だからその完璧でない部分をいかにフォローしていくかということなんです。そしてこれこそが建築家や建設会社の姿勢そのものに通 じるのだと思うのです。 (吹上晴彦氏談)


吹上晴彦
ふきあげ はるひこ
〔有限会社ウッディ・ライフ建築事務所所長・一級建築士〕
昭和26年京都生まれ。 修成建設専門学校専門部建築家卒業。 安原・中筋建築研究所、(株)毛利・前田建築設計事務所、 (株)中村建築設計事務所を経て、昭和58年、 ウッディ・ライフ建築事務所を開設。 現在京都の本社のほか、宮崎に出張所をおいて活躍中。