建物への想い 東洋地質調査(株)独身寮兼倉庫

郊外の倉庫だって、心なごむ緑を大切に。

 東洋地質調査さんの亀岡の建物は、倉庫兼寮ということで依頼されたわけなんですが、私としては単なる倉庫には見せたくなかったですね。池田から亀岡へ抜ける道路沿いにあって、意外に目立つ場所でもありますし、周辺に点在する工場とは一線を画した建物にしたかったのです。色などは周囲に溶け込むようモノトーンに押さえていますし、道路前面 に植樹をして緩衝地帯をつくったのが大きな特徴だと思います。
計画~設計にあたっては、必ず直接現地とその周りの環境を見て考えます。で、どんな街中にあっても木を一本でも植えたいというのが基本的な考え方です。なぜって、道を歩いていて緑があるとなんとなく心地好いでしょう。例えば、御池通 の欅や烏丸通のプラタナスの並木なんて季節によってすごくきれいでしょう。それは郊外だからって同じこと。もちろんこの亀岡でもね。建物が通 りから少しさがっても、そういう環境にもっていくべきだと思うのです。

植込みにするか駐車場にするかで 建物の良さが変わる。

 特に私の場合、中小企業の事務所や工場などの仕事が多いので、そうした場合の説得が難しいですね。例えば、「この木植えんかったら車2台駐められる。駐車場借りるとなんぼかかると思う」という話になり、なかなか理解してもらえないんです。それでも、「毎朝出社する方が何もない門やドアを入るのじゃなく、アプローチに木があれば心なごんで仕事につけるものです」などと手間がかかっても説得するんです。で、結果 OKをもらった建物は、出来上がってから施主さんに建物がよくなったって喜んでもらっています。
緑は建築の中で大きな要素だと思うんです。建物の完成予想図が周りの点景によってよくなるように、実存の建築物も周りの緑によってその映え方がぜんぜん違ってくるのもなんです。

時間も予算も余裕を持った 計算のできる施工を。

 大岩さんとはこれが初めての仕事でしたが、よく動いてくれたしこちらの思いを理解してくれたなという印象です。例えば私の場合、壁の色などは現場に身を置いて決めるのが一番間違いがないと思うのですが、時間的余裕のない時点で見本帳を持ってきて「早く」とせかされることが多いのです。その点で余裕をもってもらえたのはうれしかったですね。
またよく相談にきてくれたのもよかったですね。現場で勝手に処理しておいて、「こんなになりました」という施工業者さんが結構多いんですよ。事前に相談してくれればきれいに納まるものもこれじゃどうしようもないんです。まあ、その時点でやり直しのできる予算組みであればいいんですが、ぎりぎりの予算組みじゃそれもできないし。だいたい当初指定する内装材料は予算見積りのためのものですが、途中で替えようと思っても発注済みと言われたり、現場で勝手に材料が替わっていたりなどということもあります。一番腹のたつことなんですが。

東洋地質調査(株)独身寮兼倉庫/京都府亀岡市 主体構造:鉄骨2階建

職人の良し悪しはセンスできまる。

 近ごろ職人さんが減っているということをよく聞きますが、それにも増して質の低下を感じます。技術的に基本を知らない人が増えていますよ。昔でいう頑固さを持たないというか、工程の理解をせずに部分だけを憶えてしまう人が多すぎます。例えば、私が「こうしてくれ」と言っても、「はあ」で終わり。なぜ私がこうしたいのかを理解しようとしないのです。これは現場での会話がぜんぜんないからなんです。私もその中で勉強できたのです。
そしてもう一つは、センスのない人が増えたことですね。壁塗り一つをとっても、現場で細かく指示を与えてもその意図がわからずに、ただ塗っているだけという職人。これは施工会社全体にもいえることですが、設計者の理論を理解するのは理論だけじゃないんです。おかしいものをおかしいと感じられる感覚。いわゆる美的感覚が大切なのではないでしょうか。 (木村弘和氏談)


木村弘和
きむら ひろかず
〔木村弘和建築事務所所長・一級建築士〕
昭和22年京都生まれ。 京都市立伏見工業高校建築科卒業。 大阪で設計事務所に勤務後、 昭和48年に木村弘和建築事務所を開設。 数寄屋造りの嵐山落柿舎北側公衆便所の設計で、 昭和62年度全国公衆便所コンクール10選に入賞。 現在京都で活躍中。