京都での建築、最大の難題は近隣問題。 井上邸や水谷邸に限ったことではなく、京都では特有の間口が狭く奥行きの長い形の土地が多いわけですが、だから設計がやりにくいということはないですね。それよりも、条例による規制や近隣問題のほうがずっと難しいですね。特にマンションの場合、それが歴史的保存地区であったりすると大変です。また、たとえ法律や条例を守っても、近隣の承諾も得なければならないので、これがもうひとつの難題になります。 どれだけ施主さんの要望を実現できるか。
私の場合、住宅でもマンションでも店舗でも建物に変わりはないという考え方で、こだわりなく設計しています。とにかく施主さんの要望を実現しようと心がけていますから、話があった段階では100~120%、打合せをして図面
にまとめる段階でも100~95%は実現できるようにと考えています。ところが見積りの段階になると、物価の上昇などでなかなか設計通
りの予算では折り合わず、限られた予算内でどうやるかで1~2ヶ月かかることもあります。その間に要望の実現も95%から80%70%にと落ちてゆくわけですが、四苦八苦しても合格最低ラインと考える60%にはとどめたいと思ってがんばっていますよ。そのため例えば後付け可能な設備は当初は外して、取り付け可能な施工にしておくとか。逃げるというのではなく、私たちの気持ちの上での勝負だと思います。 マンションはできても 住宅のできない職人がいる。 大岩さんとは、独立前の事務所時代にやった祇園のスナック「プティ」の内装が初めてで、以後マンションや住宅をかなりやりました。パルム小林ビルもその一つです。印象としては、工期がきつくてもきっちり施工してくれるし、近隣からの苦情が少ない工事をすることですね。これは京都で培ってきた一つの強みでしょう。
職人については、今人不足の問題がありますが、中でも表に出てこない部分、例えばコンクリートを打つための型枠を組む大工や、鉄筋工などはかなり深刻ですね。建設会社としてもこうした職人の養成は急務だと思います。内装など比較的きれいな仕事にはそれなりに人材もいるんですがね。
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坪内健治朗 |